第2帖「帚木」(13)君すこし片笑みて
原文・語釈 君すこし片笑みて 君すこし片かた笑ゑみて、さる事とはおぼすべかめり。 「いづ方かたにつけても人わるくはしたなかりける身み物もの語がたりかな」 とてうち笑わらひおはさうず。 中将、 「なにがしは痴者しれも...
原文・語釈 君すこし片笑みて 君すこし片かた笑ゑみて、さる事とはおぼすべかめり。 「いづ方かたにつけても人わるくはしたなかりける身み物もの語がたりかな」 とてうち笑わらひおはさうず。 中将、 「なにがしは痴者しれも...
原文・語釈 男いたくめでて、簾のもとに歩み来て 男いたくめでて、簾すのもとに歩あゆみ来きて、 『庭にはの紅葉もみぢこそ踏ふみ分わけたる跡あともなけれ』 などねたます。菊きくををりて、 琴ことの音ねも月もえならぬ宿...
原文・語釈 中将、そのたなばたの裁ち縫ふ方をのどめて 中将ちゆうじやう、 「そのたなばたの裁たち縫ぬふ方かたをのどめて、長ながき契ちぎりにぞあえまし。げにその竜たつ田た姫ひめの錦にしきにはまたしくものあらじ。はかなき花...
原文・語釈 臨時の祭の調楽に 臨りん時じの祭まつりの調楽てうがくに、夜よふけていみじうみぞれ降ふる夜よ、これかれまかりあかるる所にて、思おもひめぐらせばなほ家いへ路ぢと思おもはむ方かたはまたなかりけり、内裏うちわたりの旅...
原文・語釈 この女のあるやう、もとより この女のあるやう、もとより思おもひいたらざりけることにも、いかでこの人のためにはと、なき手てを出いだし、おくれたる筋すぢの心をもなほくちをしくは見みえじと思おもひはげみつつ、とに...
原文・語釈 また、絵所に上手多かれど また、絵所ゑどころに上手多おほかれど、墨すみ書がきに選えらばれてつぎつぎに、さらにおとりまさるけぢめふとしも見みえ分わかれず。かかれど、人の見みおよばぬ蓬莱ほうらいの山、荒海あらう...
原文・語釈 あしくもよくもあひ添ひて あしくもよくもあひ添そひて、とあらむ折をりも、かからんきざみをも見過みすぐしたらん仲こそ、契り深ふかくあはれならめ、われも人もうしろめたく心おかれじやは。また、なのめに移うつろふ方...
原文・語釈 いまはただ、品にもよらじ 「いまはただ、品しなにもよらじ、かたちをばさらにも言いはじ。いとくちをしくねぢけがましきおぼえだになくは、ただひとへに、ものまめやかに静しづかなる心のおもむきならむ寄よるべをぞ、つひ...
原文・語釈 必ずしもわが思ふにかなはねど 必ずしもわが思おもふにかなはねど、見みそめつる契ちぎりばかりを捨すてがたく、思おもひとまる人はものまめやかなりと見みえ、さて保たもたるる女のためも心にくくおしはからるるなり。さ...