第2帖「帚木」(15)まだ文章の生にはべりし時
原文・語釈 まだ文章の生にはべりし時 「まだ文もん章じやうの生しやうにはべりし時、かしこき女のためしをなん見みたまへし。かの馬むまの頭かみの申したまへるやうに、公おほやけ事おほやけごとをも言いひ合あはせ、私わたくしざまの...
原文・語釈 まだ文章の生にはべりし時 「まだ文もん章じやうの生しやうにはべりし時、かしこき女のためしをなん見みたまへし。かの馬むまの頭かみの申したまへるやうに、公おほやけ事おほやけごとをも言いひ合あはせ、私わたくしざまの...
原文・語釈 咲さきまじる色はいづれと 咲ささきまじる色はいづれとわかねどもなほ常夏とこなつにしくものぞなき やまとなでしこをばさしおきて、まづ塵ちりちりをだになど親おやの心を取とる。 うちはらふ袖も露けき常夏と...
原文・語釈 君すこし片笑ゑみて 君すこし片かた笑ゑゑみて、さる事とはおぼすべかめり。 「いづ方かたにつけても人わるくはしたなかりける身み物ものもの語がたりかな」 とてうち笑わらひおはさうず。 中将、 「なにがしは痴...
原文・語釈 男をとこいたくめでて、簾のもとに歩ありみ来て 男をとこいたくめでて、簾すのもとに歩ありあゆみ来きて、 『庭にはの紅くれなゐ葉もみぢこそ踏ふみ分わけたる跡あともなけれ』 などねたます。菊きくををりて、 ...
原文・語釈 中将、そのたなばたの裁ち縫ふ方をのどめて 中将ちゆうじやう、 「そのたなばたの裁たち縫ぬふ方かたをのどめて、長ながき契ちぎりにぞあえまし。げにその竜たつ田た姫ひめの錦にしきにはまたしくものあらじ。はかなき花...
原文・語釈 臨時の祭の調ととの楽に 臨りん時じの祭まつりの調ととの楽てうがくに、夜よふけていみじうみぞれ降ふる夜よ、これかれまかりあかるる所にて、思おもひめぐらせばなほ家いへ路ぢと思おもはむ方かたはまたなかりけり、内裏う...
原文・語釈 この女のあるやう、もとより この女のあるやう、もとより思おもひいたらざりけることにも、いかでこの人のためにはと、なき手てを出いだし、おくれたる筋すぢの心をもなほくちをしくは見みえじと思おもひはげみつつ、とに...
原文・語釈 また、絵所に上手多おほかれど また、絵所ゑどころに上手多おほかれど、墨すみ書がきに選えらばれてつぎつぎに、さらにおとりまさるけぢめふとしも見みえ分わかれず。かかれど、人の見みおよばぬ蓬莱ほうらいの山、荒海あ...
原文・語釈 あしくもよくもあひ添そひて あしくもよくもあひ添そひて、とあらむ折ををりも、かからんきざみをも見過みすぐしたらん仲こそ、契ちぎり深ふかくあはれならめ、われも人もうしろめたく心おかれじやは。また、なのめに移う...