【原文】第3帖「空蝉」(全文)
寝ねられたまはぬままには、 「我は、かく人に憎まれてもならはぬを、今宵こよひなむ初めて憂うしと世を思ひ知りぬれば、恥づかしくてながらふまじうこそ、思ひなりぬれ」 などのたまへば、涙をさへこぼして臥ふしたり。いとらうた...
寝ねられたまはぬままには、 「我は、かく人に憎まれてもならはぬを、今宵こよひなむ初めて憂うしと世を思ひ知りぬれば、恥づかしくてながらふまじうこそ、思ひなりぬれ」 などのたまへば、涙をさへこぼして臥ふしたり。いとらうた...
光源氏ひかるげんじ、名のみことことしう、言いひ消けたれたまふ咎とが多おほかなるに、いとどかかるすきごとどもを末すゑの世にも聞きき伝つたへて、軽かろびたる名をや流ながさむと、忍びたまひける隠かくろへごとをさへ語かたり伝つ...
いづれの御時にか、女御、更衣あまたさぶらひたまひける中に、いとやんごとなき際にはあらぬが、すぐれて時めきたまふありけり。はじめより、我は、と思ひ上がりたまへる御方々、めざましきものにおとしめ嫉みたまふ。同じ程、それより下臈の更衣たちは、まして安からず。
原文・語釈 すべて男も女も 「すべて、男も女もわろものは、わづかに知しれる方かたのことを残のこりなく見みせ尽つくさむと思おもへるこそ、いとほしけれ。三史五経さんしごきやう、道々みちみちしき方かたを明あきらかに悟さとり明あ...
原文・語釈 さて、いと久しくまからざりしに 「さて、いと久ひさしくまからざりしに、もののたよりに立たち寄よりてはべれば、常つねのうちとけゐたる方かたにははべらで、心やましきもの物もの越ごしにてなん会あひてはべる。ふすぶる...
原文・語釈 まだ文章の生にはべりし時 「まだ文もん章じやうの生しやうにはべりし時、かしこき女のためしをなん見たまへし。かの馬むまの頭かみの申したまへるやうに、公事おほやけごとをも言いひ合あはせ、私わたくしざまの世に住すま...
原文・語釈 咲きまじる色はいづれと 咲さきまじる色はいづれとわかねどもなほ常夏とこなつにしくものぞなき やまとなでしこをばさしおきて、まづ塵ちりをだになど親おやの心を取とる。 うちはらふ袖も露けき常夏とこなつに...
原文・語釈 君すこし片笑みて 君すこし片かた笑ゑみて、さる事とはおぼすべかめり。 「いづ方かたにつけても人わるくはしたなかりける身み物もの語がたりかな」 とてうち笑わらひおはさうず。 中将、 「なにがしは痴者しれも...
原文・語釈 男いたくめでて、簾のもとに歩み来て 男いたくめでて、簾すのもとに歩あゆみ来きて、 『庭にはの紅葉もみぢこそ踏ふみ分わけたる跡あともなけれ』 などねたます。菊きくををりて、 琴ことの音ねも月もえならぬ宿...