【原文】第5帖「若紫」(全文)
わらは病やみにわづらひたまひて、よろづにまじなひ、加持かぢなど参まゐらせたまへど、しるしなくてあまたたびおこりたまひければ、ある人、 「北山やまになむなにがし寺といふ所に、かしこきおこない人はべる。去年こぞの夏も世にお...
わらは病やみにわづらひたまひて、よろづにまじなひ、加持かぢなど参まゐらせたまへど、しるしなくてあまたたびおこりたまひければ、ある人、 「北山やまになむなにがし寺といふ所に、かしこきおこない人はべる。去年こぞの夏も世にお...
六条わたりの御忍しのび歩ありきのころ、内裏うちよりまかでたまふ中宿なかやどりに、大弐だいにの乳母めのとのいたくわづらひて尼あまになりにける、とぶらはむとて、五条なる家いへ訪たづねておはしたり。 御車くるま入いるべき門...
寝ねられたまはぬままには、 「我は、かく人に憎まれてもならはぬを、今宵こよひなむ初めて憂うれうしと世を思ひ知りぬれば、恥づかしくてながらふまじうこそ、思ひなりぬれ」 などのたまへば、涙をさへこぼして臥ふしたり。いとら...
光源氏ひかるげんじ、名のみことことしう、言いひ消けたれたまふ咎とが多おほかなるに、いとどかかるすきごとどもを末すゑの世にも聞きき伝つたへて、軽かろびたる名をや流ながさむと、忍びたまひける隠かくろへごとをさへ語かたり伝つ...
いづれの御時にか、女御、更衣あまたさぶらひたまひける中に、いとやんごとなき際にはあらぬが、すぐれて時めきたまふありけり。はじめより、我は、と思ひ上がりたまへる御方々、めざましきものにおとしめ嫉みたまふ。同じ程、それより下臈の更衣たちは、まして安からず。
原文・語釈 すべて男も女も 「すべて、男も女もわろものは、わづかに知しれる方かたのことを残のこりなく見みせ尽つくさむと思おもへるこそ、いとほしけれ。三史五経さんしごきやう、道々みちみちしき方かたを明あきらかに悟さとり明あ...
原文・語釈 さて、いと久しくまからざりしに 「さて、いと久ひさしくまからざりしに、もののたよりに立たち寄よりてはべれば、常つねのうちとけゐたる方かたにははべらで、心やましきもの物もの越ごしにてなん会あひてはべる。ふすぶる...
原文・語釈 まだ文章の生にはべりし時 「まだ文もん章じやうの生しやうにはべりし時、かしこき女のためしをなん見たまへし。かの馬むまの頭かみの申したまへるやうに、公事おほやけごとをも言いひ合あはせ、私わたくしざまの世に住すま...
原文・語釈 咲きまじる色はいづれと 咲さきまじる色はいづれとわかねどもなほ常夏とこなつにしくものぞなき やまとなでしこをばさしおきて、まづ塵ちりをだになど親おやの心を取とる。 うちはらふ袖も露けき常夏とこなつに...