第1帖「桐壺」(10)風の音、虫の音につけて
原文・語釈 風の音、虫の音につけて 風かぜの音おと、虫むしの音ねにつけて、もののみ悲しう思おぼさるるに、弘徽こき殿でんには、久しく上うへの御局つぼねにも参まう上のぼりたまはず、月のおもしろきに、夜よふくるまで遊あそびを...
原文・語釈 風の音、虫の音につけて 風かぜの音おと、虫むしの音ねにつけて、もののみ悲しう思おぼさるるに、弘徽こき殿でんには、久しく上うへの御局つぼねにも参まう上のぼりたまはず、月のおもしろきに、夜よふくるまで遊あそびを...
原文・語釈 いとこまやかにありさま いとこまやかにありさま問とはせたまふ。あはれなりつること忍びやかに奏そうす。御返り御覧ずれば、 「いともかしこきはおき所どころもはべらず。かかる仰おほせ言ことにつけても、かきくらす乱...
原文・語釈 月は入り方に、空きよう澄みわたる 月は入いり方がたに、空きよう澄すみわたれるに、風いと涼すずしくなりて、草むらの虫の声々こゑごゑもよほし顔がほなるも、いと立ち離れにくき草のもとなり。 鈴虫の声こゑの限り...
原文・語釈 くれまどふ心の闇も、耐へがたき片端を 「くれまどふ心の闇やみも、耐たへがたき片端かたはしをだに晴はるくばかりに聞きこえまほしうはべるを、私わたくしにも心のどかにまかでたまへ。年としごろ、うれしく面おも立だたし...
原文・語釈 しばしは夢かとのみたどられしを 「『しばしは夢かとのみたどられしを、やうやう思おもひ静しづまるにしも、さむべき方かたなく耐たへがたきは、いかにすべきわざにかとも問とひ合あはすべき人ひとだになきを、忍しのびては...
原文・語釈 はかなく日ごろ過ぎて はかなく日ひごろ過すぎて、後のちのわざなどにもこまかにとぶらはせたまふ。ほど経ふるままに、せむ方かたなう悲かなしう思おぼさるるに、御方々かたがたの御宿との直ゐなども絶たえてしたまはず、...
原文・語釈 御胸つとふたがりて 御胸むねつとふたがりて、露つゆまどろまれず、明かしかねさせたまふ。御使つかひの行ゆき交かふほどもなきに、なほいぶせさを限かぎりなくのたまはせつるを、 「夜中うち過すぐるほどになん絶たえ果...
原文・語釈 この御子、三つになりたまふ年 この御子みこ、三みつになりたまふ年、御袴着はかまぎのこと、一の宮のたてまつりしに劣らず、内蔵寮くらづかさ、納殿をさめどののものを尽くしていみじうせさせたまふ。 それにつけても...
原文・語釈 初めよりおしなべての 初めよりおしなべての上宮仕うへみやづかへしたまふべき際きはにはあらざりき。おぼえいとやむごとなく、上衆じやうずめかしけれど、わりなくまつはさせたまふあまりに、さるべき御遊あそびの折々を...