【原文】第3帖「空蝉」(全文)
寝ねられたまはぬままには、 「我は、かく人に憎まれてもならはぬを、今宵こよひなむ初めて憂うしと世を思ひ知りぬれば、恥づかしくてながらふまじうこそ、思ひなりぬれ」 などのたまへば、涙をさへこぼして臥ふしたり。いとらうた...
寝ねられたまはぬままには、 「我は、かく人に憎まれてもならはぬを、今宵こよひなむ初めて憂うしと世を思ひ知りぬれば、恥づかしくてながらふまじうこそ、思ひなりぬれ」 などのたまへば、涙をさへこぼして臥ふしたり。いとらうた...
光源氏ひかるげんじ、名のみことことしう、言いひ消けたれたまふ咎とが多おほかなるに、いとどかかるすきごとどもを末すゑの世にも聞きき伝つたへて、軽かろびたる名をや流ながさむと、忍びたまひける隠かくろへごとをさへ語かたり伝つ...
いづれの御時にか、女御、更衣あまたさぶらひたまひける中に、いとやんごとなき際にはあらぬが、すぐれて時めきたまふありけり。はじめより、我は、と思ひ上がりたまへる御方々、めざましきものにおとしめ嫉みたまふ。同じ程、それより下臈の更衣たちは、まして安からず。