【原文】第4帖「夕顔」(全文)
六条わたりの御忍しのしのび歩ありありきのころ、内裏うちよりまかでたまふ中宿なかやどりに、大おほ弐だいにの乳母めのとのいたくわづらひて尼あまになりにける、とぶらはむとて、五条なる家いへ訪たづねておはしたり。 御車くるま...
六条わたりの御忍しのしのび歩ありありきのころ、内裏うちよりまかでたまふ中宿なかやどりに、大おほ弐だいにの乳母めのとのいたくわづらひて尼あまになりにける、とぶらはむとて、五条なる家いへ訪たづねておはしたり。 御車くるま...
寝ねられたまはぬままには、 「我は、かく人に憎まれてもならはぬを、今宵こよひなむ初めて憂ううれうしと世を思おもひ知しりぬれば、恥はづかしくてながらふまじうこそ、思おもひなりぬれ」 などのたまへば、涙をさへこぼして臥ふ...
光源氏ひかるげんじ、名のみことことしう、言いひ消けたれたまふ咎とが多おほかなるに、いとどかかるすきごとどもを末すゑの世にも聞きき伝つたへて、軽かろびたる名をや流ながさむと、忍しのびたまひける隠かくろへごとをさへ語かたり...
いづれの御時にか、女御、更衣あまたさぶらひたまひける中に、いとやんごとなき際にはあらぬが、すぐれて時めきたまふありけり。はじめより、我は、と思ひ上がりたまへる御方々、めざましきものにおとしめ嫉みたまふ。同じ程、それより下臈の更衣たちは、まして安からず。